やり直し後すぐに修行を再開し、こっそり魔窟に入って魔物をもぐもぐをする日々を……
「おえっ……いやマッズ!あ、ドブみてぇな味に思わず汚い言葉を使ってしまいましたわ!メイド長に叱られてしまいますし気を付けませんと。」
そんな日々を続けて数ヶ月が経ったある日アビゲイルはとある問題に頭を悩ませていた。魔窟に入っていたことがバレたのだ。
「お、お父様?これには魔窟くらい深いわけがあるんですの!」
余談だが、魔窟は莫大な魔力によって空間が歪んで森内部が拡張されているだけで本来の規模はそこまでだったりする。そのため、森の中を突っ切るよりも森の縁に沿って進んだ方が距離が短い。それはさておき……
『ほう、それはこの俺、もといイザベラを納得させられる程のものなのか?さぁ試しに言ってみるといい。』
マ、マイン踏みましたわァァァ!これ絶対何言ってもお父様に言い訳だと思われるやつですわ!どう取り繕ったところで何適当言ってんだ!って怒られるパターンですわ!こ、こうなったら諦めて開き直るしかありませんわね!
「わ、わたくしは強くなりたいんですの!絶対に強くならなければいけないんですの!何をしてでも……」
『何がお前をそこまで駆り立てるんだ。』
龍に殺されたことを理由には出来ないですし……え、え〜っと……え〜っと……こ、これですわ!
「弱いままでは誰も、自分自身の命すらも守れないからですわ。わたくしは全てを投げ打ってでも強くなると決めたんですの!」
『どういう経緯でそう考えるに至ったかが気になるところだが……まぁいい。それよりお前の手網を握ることを考えねばな。俺がダメだと言ったところでどうせまた魔窟に入るのだろう?』
乗り切ったと思ったら乗り切れていませんでしたわ!何が悪かったんですの!?
「そんな!は、入るわけがないですわ!」
『俺は……つまらない嘘が嫌いなんだ。』
"ビクッ"
な、なんでバレてるんですの!?まさか表情に出て……
"ムニムニムニ"
おかしなところは……
"モチモチモチ"
なさそうですわね!
『何をしている?』
「なんで嘘だって思われたのが気になったので表情を確認しようかと思いまして……」
『はぁ……もういい。うちの騎士団の奴らの実地訓練に参加してこい。6歳のお前に魔窟はまだ早いとは思う……が、俺らの目を盗んで入られるよりはマシだろうからな。くれぐれも先走って勝手に魔窟にはいるんじゃないぞ。』
お父様にすっごい呆れたような顔をされましわ!なんで!?それにしても我ながらほっぺの触り心地いいですわね。
"モチモチモチ"
「もちろんですわ!わたくしちゃんと我慢できますもの!」
『そうか、それじゃあ下がっていいぞ。』
「失礼いたしますわ。」
"ムニムニムニ"
『はぁ……』
お父様がため息をついてますわ。きっとお疲れだったんですわね。心配ですわね……あとでお茶とお菓子でも持っていこうかしら。きっと娘であるわたくしの手作りお菓子を食べれば元気になりますわよね!
◇◇ 父親side 『ふぅ……行ったか。全くあのお転婆娘は。それにしても"弱ければ誰も守れない"か……』『旦那様、何か心配ごとでも?』
『あの子が変わったような気がしてな。少し焦り過ぎているようで危ういのだよ。』
『アビゲイルお嬢様はお変わりありませんよ。お嬢様はいつも誰かのことを考えておられます。その誰かを守るためには力が必要だと知って少々気が急いでいるだけでしょう。心配であれば旦那様が直接ご指導されては?』
『そうしたいところではあるんたが……』
『どうなさったんです?』
『あの子に教えるのが楽しくてやりすぎてしまう自信があってだなぁ……』
『ぷっあはははははさすが脳筋親バカ!ゴホンッ失礼しました。』
こいつは相変わらず……
『おいセルワード!ゴホンッじゃ誤魔化せてないからもう取り繕わなくていい!ったくお前は……』『それじゃお言葉に甘えて〜♪すーぐ調子乗って暴走しだすのはお前の悪い癖だよな。まぁ昔からだし今更治らんとは思うが。アハハハハハッ!』
取り繕わなくていいと言ったのは俺だがさすがにやりすぎだろこいつ……
『はぁ……』
『ため息なんてついて悩みごとか?』
お前マジで誰のせいだと思って……
『あぁ、丁度今一つ悩みごとが増えてな。』
『そうかぁ〜辺境伯様も大変だなあ。』
これが俺相手じゃなければ無礼打ちだぞ。こいつ分かってんのか?
『チッ』『そうカッカするなよアルバード。』
『はぁ……』
最近調子乗ってるこのバカを一週間くらい魔窟にでも放り込んでやろうか。
◇◇
「ついに魔窟での修行がお父様公認になりましたわ!剣の技量を伸ばすにも限界がありますし、他の武術の要素も取り入れるべきですわね。」
アビゲイルを含めルミナリア辺境伯家の者は皆修めるルミナリア流剣聖術では剣術以外も修練するのだがあくまで剣術がメインであり、軽くやる程度なのだ。とは言っても剣以外を使っても並の戦士には負けないのだが……
相手が自分の土俵で戦っているにも関わらず負けたことで心を折られた者が数多くいるとかいないとか。
「それに増えた魔力の鍛錬もやり始める必要もありますわね。一流の剣士は得物を選ばないからと意地を張ってないで腕の良い鍛冶師の情報収集もしないといけませんわ。とりあえずお父様に伝手がないか聞いてみるのがいいかもしれないですわね。」念の為に騎士団に同行しての魔窟演習までには剣を用意すべきですわね。まぁ正直、あの時の龍クラスを連れて来ない限りわたくしは騎士団で支給されてるロングソードでも余裕ですけれど。
さすがにあの龍は無理ですけれど。名付きの武器が用意できれば数年以内には問題なく討伐できますわ!とは言ってもいずれ来る災厄に対抗するにはまだまだ力不足ですわね……。それにイレギュラーはいつ起こるか分からないですものね。実際わたくしはそのイレギュラーに殺されたわけですし。
龍種は最強格だ。それはあくまで種としての話。世界蛇、神を喰らう狼、霊鳥は格が違う。彼らは創世の時代から生き続ける化け物だ。世界に生まれし物たちの中から誕生した神に匹敵する存在。彼らの均衡が崩れようとしているこの時代に生まれた以上、神だろうとなんだろうと殺るしかない。だがそれは、人の身では限りなく不可能に近い大業。
それでもアビゲイルは討伐可能であると踏んでいた。神話において人が神を殺す逸話は多数ある。ならば自分にできない道理はないと考えていたのだ。
「もっと……もっと強くならないとですわね!フンスッ!」
「勉強クソだりぃですわ!というわけで今日は気分転換にブタ共をシバキにいきますの!」 誰に言ってんだこのエセお嬢様の皮を被ったガチお嬢様は……。それはそうと彼女がブタ呼んだ魔物の正式名称は魔豚人(オーク)。小鬼(ゴブリン)と同様に極めて原始的な種であり、それ故に進化や変異の幅が広い。小鬼と違い、通常種と上位種で見た目に変化がほとんどない。そのため冒険者になりたての者が誤って攻撃してしまい殺されるという事故がよく起きる。 「あんなもんただの二足歩行する豚ですものね。狩って食べるなら少しでもマシな方がいいですもの。」 そんなことを言いながら首を狩っては内臓を引きずり出して吊りしてを繰り返していく。表情を一切変えずに。やーいやーい!自称か弱い女の子ー!どこがじゃーい!「チッ……この刃が届かぬところからふざけたことを。いずれわたくしも貴方の首を貰いにそこまで言ってさしあげますからね。首を洗って待っていてくださいね。貴方を喰らえばどこまで強くなれるのかしらね。」 ッ!?ま、まぁ所詮は定命の者の戯言。しかも言ったのは定命の者の中でも脆弱な人種。そんなソナタらの刃が我らに届くことはない、ない……はず。多分大丈夫。 「あれは豚、あれは豚ですわ。」 わ、我は豚ではない!我神ぞ!偉いんだぞ!強いんだぞ!「いや、豚って言ったのはあんたの事じゃねぇよ。とりあえずこんなものかしら。ついでに竜でも狩っていこうかしらね。飛竜の幼体が街道の方まで飛んできてちょっかいを出していると聞きますし……。どうせ倒さなければいけないなら一人の時に倒してついでに味見までするとしましょうか。」 竜は縄張りを持つ種族だ。故に基本竜は単独で行動している。そんなプライドが高いが故に舐めプをしてくる竜はある一定以上の強さを持つものからすれば格好の獲物だ。バカで傲慢で目立ちたがり屋な性格故に無駄に吼えるし、魔力もダダ漏れで探すのも楽で相手の力量も見極められないから逃げもしない。 ほんとにこんなのが好きだとは貴族というのはおかしな連中だ。骨格標本にして売ると白金貨数枚はくだらないらしいけど……阿呆の骨なんて飾ってなんになるんだか。まぁ売れるなら売るけども。 えぇ〜っとですね。竜の狩り方講座の方を始めていきたいと思います!奴らは接敵と同時におらかかってこいや!と言わんばかりの咆哮で相手を威圧してきます
あ、これ多分深く考えちゃダメなやつですわね。タイムパラドックスとか緩やかに元の時間軸に合流して結局龍に負けて死ぬ未来変えられない可能性とかそんなことを考えてたらわたくしのアイデンティティ崩壊まで秒読みですしね。 わたくし、SAN値チェック失敗して発狂だなんてごめんですもの!きっと神的な上位存在が起こした矛盾をはらんだ超常現象的ですわね。可能性の話は一旦脇に置いて気分転換がえてら今後のことを考えましょうかね。わたくしはこのままいけば学園に通うことになりますわね。 回避できないこともないですけれど……土地と民を見捨てて攻めるならともかく守りながら戦うとなると戦闘員の数が少々心もとないんですのよね。広い土地を守るには数必要ですし、見せかけだけだとしても数がいれば民を安心させるのにも有用ですもの。やはり平民貴族問わず人材を育てて同時に引き抜きをするのが無難ですわね。 とはいえ今後のことを考えると勧誘の過程で他家と揉めるわけにもいけないのがまた厄介ですわね。穏便にとなると慎重に事を進めなければいけないのがストレスですわね。時間があまりないというのに……クッソめんどくせぇですわ!サクッと武力制圧したいところですけれど、そんな些事にリソースを割けるほど時間的に余裕がないのがネックですわね。「よし、柄ではないですけれど優等生キャラを演じて片っ端から恩を売りまくってやりますわ!」 学園入学時にはおそらく前回の全盛期には達しているでしょうし、武闘派貴族の学園での師匠ポジに収まりたいところですわね。脳筋共は基本馬鹿ですけれど恩にはしっかり報いてくれますし安心ですわね、馬鹿ですけれど。すっごい馬鹿ですけれど。 そういえばあの馬鹿共、意外とモテるらしいですわね。普段の緩いのに戦闘になると表情をキリッとさせてクレバーに戦うギャップがいいらしいですわ。わたくしも……モテたかったですわね。わたくしとあのおバカさん達は何が違うのかしら。 今回は優等生キャラを演じる予定ですし、前回一ミリも異性からモテなかったわたくしにも好意を向けてくれる殿方の一人や二人くらい……。絶対に婚約者を捕まえてあのノンデリ団長に全力でドヤ顔で煽り倒してなりますわ! 悔しがるノンデリの顔が目に浮かび……浮か……あのノンデリどんな顔だったかしら。困りましたわ!記憶にモヤがかかったように思い出せませんの。こんな
「この国の始まりは英雄王と呼ばれる初代国王陛下のロータス・ベルウッド様が現在の王都周辺に点在していた各民族の集落を統一したことです。初代様は国名をペンドラゴンとし、初代様ご自身はロータス・ベルウッド・ペンドラゴンと名乗りました。」 初代様の名前くらいなら覚えているんですけれど……。初代様の名前は畏れ多いからと貴族の名前に使われておりませんしね。ペンドラゴンは国名ですし、ベルウッドは王家の家名。いくら最後に勉強したのが死ぬ数年前とはいえ"ロータス"という単語はちゃんと頭に入っていますもの。 「お嬢様、心ここに在らずといったご様子ですが、ちゃんと聞いていますか?」 「もちろんですわ!それにそれくらいならわたくしも知っておりますし、よゆーのよっちゃんですわ。」 ま、まぁ?それが誰の名前かを今思い出したことは否定しませんけれど。 「初代様は数々の画期的な発明をしたことから近代魔道具の父とも呼ばれています。魔道冷蔵庫や魔道レンジ、魔道コンロといった魔道具も初代様の発明品です。その独特な名付けも有名です。」 レンジってなんなのかしら。どうして魔道加熱箱みたいな名前じゃないのか不思議ですわね。それに冷めた食べ物を温める時に便利ですけれど、何からこの道具の着想を得たのかしら。 「それ以外にも数々の逸話があるため我々と同じ人間ではないんじゃないかと言われています。今も初代様の出自についてはよくわかっていないのもあります。突飛なものだとこことは違う世界からやって来た異世界人だなんて説もあります。一番有力なのは預言者説ですね。」 はぁ……この初代様オタクは説明がくそ長ぇですわね。初代様の出自に関しては異世界だの預言者だの未来人だのバカバカしいですわ。古代人の生まれ変わりに決まっておりますのに。未来人だとその方が過去にいる時間軸の未来にはその方が存在しないという矛盾が生まれてしまうといいいますのに……。 ふわぁ……あまりの長さに眠たくなってきてしまいましたわ。 あれ?わたくしは……
メイド長怖すぎですわ。無事乗り切ったことですし忘れることにしますわ。このままですとわたくし、メイド長と目が合った瞬間に動けなくなってしまいそうですもの。 貴族令嬢たるもの優雅であれだのとうるさいんですのよね。「武芸に傾倒するのは結構ですが、いい加減勉学にも励んでくださいまし!」とか何度も何度もしつけぇんですのよね。王立学園の卒業は貴族の義務とされていますけれど……ぶっちゃけめんどうですわ。バックれる方法とかあればいいんですけれど。はぁ……。「嫌ですわ!勉強なんて最低限でいいではありませんか!どうして窓のない部屋に閉じ込められてまで勉強を強制されなければいけないんですの!わたくしは腐っても辺境伯家の令嬢ですわよ?こんなのおかしいですわ!いい加減にしてくださいまし!」 ノブレス・オブリージュというのもありますし、貴族たるもの武芸だけでなく勉学においても研鑽を積むべきというのも理解はしているつもりですの。だが断r……お断りですわ!このわたくしの最も嫌いなことの一つは他人に指図されことですの!「おかしいのはお嬢様の方です!なんで歴史の勉強からそうまでして逃げるんですか!窓がないのもお嬢様のこれまでの行動の結果です!何度も何度もお嬢様が窓ガラスを突き破って逃げるからです!鉄格子を付けてもそれごと突き破りますし……いい加減にして欲しいのはこちらです!」 それで窓があるのが悪いという考えに至りましたのね。それはわたくしが悪いのかもしれませんわ。「歴史の勉強が大事なのはわかっていますわ。過去の事例の起きた年まで把握する必要はないと思うんですの!どういう条件の元でそれが起きてどのような影響を及ぼし、どういった方向で解決したのか……それさえ分かればいいではありませんか!過去から学び今に活かすというのはそういうことだとわたくしは思いますの!ていうかアレなんなんですの!似たような名前が多い上にどいつもこいつもクッソ長い名前を名乗りやがるのは後世を生きるわたくしたちに喧嘩でも売っているのかしら?」 なんなんですの!アメリアという名前の方なんて学び始めの今の段階で47人はいますわよ!アルバードという名前の方は106人?しかも同じ血族の方もいますし……。実は皆さん頭悪いんじゃありません?「はっきりと申し上げましょう。お嬢様の言う通りです。ですが、これはあくまで学園入学のため。
次の一撃で模擬戦を終わりにするとは言いましたけれど……どの技にするべきかしら。 わたくし、技名覚えるの苦手なんですの。我流という建前のもと適当に技名を言って乗り切っていましたけれど……ぜんっぜん良い技名が思いつきませんわ!そもそも狙いをどこにすべきかしら。メイド長に見られている以上変なことはできませんしどうしましょう。あぁどうしましょう。 男性のナニを切るのはやはりお下品でしょうか。となると首?うっかりスパッとやってしまいそうで怖いですわね。そもそも血を被ってはきっとメイド長に怒られますし大事をとって流血しないように…… 柄!柄で殴れば血は出ませんわよね!正面からやれば嘔吐物がかかってしまって流血の二の舞ですし高速で移動しながらすれ違いざまに背中に剣の柄を撃ち込めば……大丈夫そうですわね!やったことはないですけれどなんとかなりますわよ!なんてったって未来の剣姫ですもの! この間、0.7秒である。「それでは……行きますわよ!」◇◇ 合図とともにお嬢様が消え……背中から衝撃!?「我流 断罪。」「カハッ……俺の勝ちですお嬢様。」 ギリッギリではあったが剣を杖にして立っている俺の勝ちだろう。死ぬかと思ったがお嬢様の手加減のおかげで生き残った。主君のご令嬢であるアビゲイルお嬢様は本来俺たち騎士団が命を賭して護るべき存在。「ワタクシハタイサンイタシマスワ!!」 そのお嬢様に手加減をされた上でのこの満身創痍という状態。団長として不甲斐ない限りだ。我流断罪とは恐ろしき技であった。それでも俺は生きている。今は事実に感謝するとしよう。「お嬢様。遠征中の無礼な発言、大変申し訳ございませんでした!そしてこの護るべきお嬢様に手加減をされてしまったこの事実を恥、これまで以上に鍛錬を積んでいく所存です!」「団長、お嬢様もういないっす。」「へ?」 逃げるアビゲイル。そして、取り残された騎士団長ガウェイン。 アビゲイルは無事にメイド長から逃げ切ることができるのか。そして、更なる鍛錬を決意したガウェインはアビゲイルの境地に近付けるのか。そして、二人がもう一度戦う日はやってくるのか。 それは……神にもわからない。
おいおいこのお嬢様もしかしなくても俺のこと本気で潰しにきてねぇか?おっと!的確に急所を潰しにきてやがる!多少の欠損程度なら魔法で治るとはいえ一度潰れたらトラウマで不能になるんだぞ!腕とかなら治れば機能も復活するけどよぉ……ソコは治らねぇんだぞ! 「ちょ、お嬢様?俺のっ!大事なっ!息子をっ!潰そっ!としないっ!でくれまっ!せんかねぇ!」 殺気ダダ漏れだしよぉ。いやね?俺も幼いとはいえレデイ相手に婚期の話のはまずかったかもしれねぇけどよぉ。あ、化け物って言ったのもまずかったか。でもよぉ、血に濡れながら淡々と魔物を殲滅していく子供がいたらそりゃ怪異の類だろう?悪かったとはもちろん思ってるぞ?でもこんな殺気垂れ流しながら急所狙いで攻め立てんでもと思うわけよ。 あぁ……でもあれか。客観的に見れば騎士が公爵クラスの貴族のご令嬢相手に化け物とか言ったつう事案なわけだが……普通に考えたら一族郎党あの世行きだな。それを殺気丸出しとはいえ模擬戦で許してくれるんだから十分温情をかけてくれてんのか。こりゃ……死んだか? いやでも流石に俺は団長だしな。チョン切られる女の子にされちゃうなんてことにはさすがになら……なら……なるわこれ!お嬢様が満足するか当主様が覗きに来て止めるまで耐久するしかないんだけど無理そうなんだよなぁ。 ◇◇ にしてもこいつこの辺境伯家の騎士団で団長してるだけあってクソ硬ぇですわね。いくら手加減してるとはいえここまで耐えるとは予想外ですわ。耐えられてるのはムカつきますけれど、加減をミスってうっかり殺したらさすがに父様に怒られますし不用意に人を殺す趣味などありませんもの。 「いい加減くたばりやがれですわ!」 あ、お母様かメイド長はいませんわよね!聞かれてませんわよね!な、な、な、な、な、なんでメイド長が騎士たちに混じっていますの!?こ、これは模擬戦が終わり次第逃げる必要がありますわね。 逃げたところであとで再教育が待っている気がしますけれど……わたくしは今を生きるのですわ!あとのことは未来のわたくしに任せてしまえばいいんですもの! そうと決まればメイド長の目が怖いですしさっさとこの模擬戦を終わらせてトンズラこいてやりますわ! 「騎士団長、次の技を受けて立っていられたら許して差し上げますわ!せいぜい痩せ我慢でもしてくださいまし!」